2012年10月31日水曜日

[古典の名歌]菅原道真

<菅原道真・古典の名歌>

こち吹かばにほひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな

訳・東風が吹いたら香りを送っておくれ梅の花よ。主人がいないからといって春を忘れず咲けよ。

2012年10月30日火曜日

[新古今和歌集]藤原清輔

<藤原清輔・新古今和歌集>

うす霧の籬(まがき)の花の朝じめり秋は夕べと誰か言ひけむ

訳・薄く霧がかかって、垣根に咲いている花が朝しっとりぬれている。秋は夕暮れがよいと、誰が言ったのだろうか。

2012年10月29日月曜日

[新古今和歌集]宮内卿・2

<宮内卿・2・新古今和歌集>

花さそふ比良の山風吹きにけりこぎ行く舟の跡みゆるまで

訳・桜の花を誘うように散らして比良の山風が吹いたことだ。琵琶湖の水面に浮かぶ花びらで漕いでいく舟の通った跡がわかるほどに。

2012年10月28日日曜日

[新古今和歌集]宮内卿・1

<宮内卿・1・新古今和歌集>

薄く濃き野べの緑の若草に跡まで見ゆる雪のむら消え

訳・薄い所や濃い所がある野辺の若草の色によって、雪がまだらに消えていった跡までわかることだ。

2012年10月27日土曜日

[新古今和歌集]藤原秀能

<藤原秀能・新古今和歌集>

夕月夜潮みちくらし難波江のあしの若葉にこゆるしらなみ

訳・夕方のつきが出て、潮が満ちてくるらしい。難波の入り江の蘆の若葉を越えてくる白波よ。


2012年10月26日金曜日

[新古今和歌集]藤原有家

<藤原有家・新古今和歌集>

散りぬればにほひばかりを梅の花ありとや袖に春風の吹く

訳・梅の花は散ってしまい香りだけ残っているのを、まだ咲いていると思ったのだろうか。袖に春風が吹くよ。

2012年10月25日木曜日

[新古今和歌集]式子内親王・2

<式子内親王・2・新古今和歌集>

桐の葉もふみ分けがたくなりにけり必ず人を待つとなけれど

訳・秋も深まり桐の落ち葉も踏み分けて通りにくいほど散り敷いた。必ずしも人の訪れを待っているというのではないけれども。

2012年10月24日水曜日

[新古今和歌集]式子内親王・1

<式子内親王・1・新古今和歌集>

山深み春ともしらぬ松の戸にたえだえかかる雪の玉水

訳・山が深いので春が来たとも分からない山家の松の戸に、とぎれとぎれに落ちる美しい雪どけのしずくよ。

2012年10月23日火曜日

[新古今和歌集]慈円

<慈円・新古今和歌集>

思ふことなど問ふ人のなかるらん仰げば空に月ぞさやけき

訳・思っていることをなぜ尋ねてくれる人がいないのだろうか。仰ぐと私の満たされない気持ちに関係なく月がさやかに照っているよ。

2012年10月22日月曜日

[新古今和歌集]藤原良経

<藤原良経・新古今和歌集>

人すまぬ不破の関屋の板びさし荒れにしのちはただ秋の風

訳・人が住まない不破の関所の板びさしよ。荒れ果てた後はただ秋の風が吹くばかりだ。

2012年10月21日日曜日

[新古今和歌集]藤原家隆・2

<藤原家隆・2・新古今和歌集>

志賀の浦や遠ざかり行く浪まより氷りて出づる有明の月

訳・志賀の浦よ、岸から凍るにつれて遠ざかっていく波の間から、凍りついたように冷たく光って出てきた有明の月よ。

2012年10月20日土曜日

[新古今和歌集]藤原家隆・1

<藤原家隆・1・新古今和歌集>


霞立つ末の松山ほのぼのと浪にはなるるよこ雲の空

訳・霞が立ちこめている末の松山はぼんやりと見え、海では波から離れようとして横にたなびいた雲が上がっていく空よ。


2012年10月19日金曜日

[新古今和歌集]藤原定家・3

<藤原定家・3・新古今和歌集>

しろたへの袖のわかれに露おちて身にしむ色の秋風ぞ吹く

訳・白い衣の袖と袖を分かつ明け方の別れに露が落ちて涙も落ち、身にしみとおるような色の秋風が吹くことだ。

2012年10月18日木曜日

[新古今和歌集]藤原定家・2

<藤原定家・2・新古今和歌集>

駒とめて袖打ちはらふかげもなし佐野のわたりの雪の夕暮れ

訳・馬をとめて袖の雪を払い落とす物陰もない。佐野のあたりの雪の降る夕暮れよ。

2012年10月17日水曜日

[新古今和歌集]藤原定家・1

<藤原定家・1・新古今和歌集>

春の夜の夢の浮橋とだえして嶺にわかるるよこ雲の空

訳・春の夜の夢がふととぎれてめざめると、空には横にたなびいた雲が峰から離れていくよ。

2012年10月16日火曜日

[新古今和歌集]西行・3

<西行・3・新古今和歌集>

願はくは花の下にて春死なむその如月の望月の頃

訳・願うことには、桜の花の下で春に死にたいものだ。釈迦入滅の日の二月十五日の満月の頃に。

2012年10月15日月曜日

[新古今和歌集]西行・2

<西行・2・新古今和歌集>

年たけてまたこゆべしと思ひきやいのちなりけりさ夜の中山

訳・年老いてまたこの山を越えるであろうと思っただろうか。いや思いもかけなかった。命あればこそだよ、また小夜の中山を越えるとは。

2012年10月14日日曜日

[新古今和歌集]西行・1

<西行・1・新古今和歌集>

津の国の難波の春は夢なれやあしの枯葉に風渡るなり


訳・津の国の難破の春景色は夢のような気持ちがする。今は蘆の枯れ葉に風が吹き渡っているよ。

2012年10月13日土曜日

[新古今和歌集]藤原俊成・2

<藤原俊成・2・新古今和歌集>


昔思ふ草の庵のよるの雨になみだな添へそ山ほととぎす

訳・昔を思って涙にくれている草庵での夜の雨の中に、そんな悲しそうに鳴いて私の涙をさらに加えさせないでくれ、ほととぎすよ。

2012年10月12日金曜日

[新古今和歌集]藤原俊成・1

<藤原俊成・1・新古今和歌集>

又や見む交野のみ野の桜狩花の雪散る春のあけぼの

訳・再び見ることがあろうか。交野の御料地の桜狩りで、花が雪のように舞い散る春の明け方のこの美しい景色を。

2012年10月11日木曜日

[新古今和歌集]後鳥羽院

<後鳥羽院・新古今和歌集>

見渡せば山もとかすむ水無瀬川夕べは秋と何思ひけむ

訳・はるかに見渡すと山のふもとがかすんで水無瀬川の趣も深い。夕暮れの景色は秋がよいと、どうして今まで思っていたのだろう。春の夕暮れも趣深いことだよ。

2012年10月10日水曜日

[古今和歌集]伊勢・2

<伊勢・2・古今和歌集>

冬枯れの野べとわが身を思ひせばもえても春を待たましものを

訳・冬枯れの野べであると自分の身を思ってみると、ああして燃えてでも春を待つのになあ。

2012年10月9日火曜日

[古今和歌集]伊勢・1

<伊勢・1・古今和歌集>

春霞立つを見すててゆく雁は花なき里にすみやならへる

訳・春霞が立ちこめるのを見捨てて北へ帰る雁は、花の咲かない里に住みなれているのか。


2012年10月8日月曜日

[古今和歌集]清原深養父

<清原深養父・古今和歌集>

冬ながら空より花の散りくるは雲のあなたは春にやあるらむ

訳・冬でありながら、空から花が散ってくるのは、雲のむこうはもう春なのだろうか。

2012年10月7日日曜日

[古今和歌集]素性法師・2

<素性法師・2・古今和歌集>

われのみやあはれと思はむきりぎりす鳴く夕かげのやまとなでしこ

訳・私だけがしみじみかわいいと思うのだろうか。きりぎりすが鳴く夕日の光の中に咲く大和なでしこよ。

2012年10月6日土曜日

[古今和歌集]素性法師・1

<素性法師・1・古今和歌集>

見わたせば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける

訳・はるかに見渡すと柳と桜をまぜ合わせて、都が春の錦だったのだなあ。(秋の山の紅葉<錦>に対して、都を張るの錦と見立てた。)

2012年10月5日金曜日

[古今和歌集]壬生忠岑・2

<壬生忠岑・2・古今和歌集>

春日野の雪間をわけておひいでくる草のはつかに見えし君はも

訳・春日野の雪の消え間を分けて生え出てくる草のように、わずかに姿が見えたあなたよ。どうしていらっしゃるのか恋しいことです。

2012年10月4日木曜日

[古今和歌集]壬生忠岑・1

<壬生忠岑・1・古今和歌集>

久方の月の桂も秋はなほもみぢすればや照りまさるらむ

訳・月にある桂の木も秋にはやはり紅葉するので、秋の月は他の季節よりも明るく照り輝くのであろうか。

2012年10月3日水曜日

[古今和歌集]凡河内躬恒・3

<凡河内躬恒・3・古今和歌集>

風吹けば落つるもみぢ葉水清み散らぬ影さへ底に見えつつ

訳・風が吹くと落ちるもみじの葉が水面に浮いているが、水が清らかなので散っていないもみじの影までも水の底に見え見えするよ。

2012年10月2日火曜日

[古今和歌集]凡河内躬恒・2

<凡河内躬恒・2・古今和歌集>

夏と秋と行きかふそらのかよひぢはかたへすずしき風や吹くらむ

訳・夏と秋とがすれちがう空の通路は、秋の通る片側だけ涼しい風が吹いているだろうか。

2012年10月1日月曜日

[古今和歌集]凡河内躬恒・1

<凡河内躬恒・1・古今和歌集>

春の夜のやみはあやなし梅花色こそ見えね香やはかくるる

訳・春の夜の闇はわけがわからない。(闇の中に隠して)梅の花の色は見えないけれど、香りが隠れるのだろうか、いや隠れはしない。