2012年8月31日金曜日

[万葉集]大伴家持・3

<大伴家持・3・万葉集>


わが屋戸のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕かも

訳・わが家のささやかな竹の茂みに吹く風の音がかすかに聞こえてくるこの夕暮れよ。

2012年8月30日木曜日

[万葉集]大伴家持・2

<大伴家持・2・万葉集>


春の野に霞たなびきうら悲しこの夕かげに鶯鳴くも

訳・春の野に霞がたなびいて物悲しい。夕暮れの光の中で鶯が鳴いているよ。

2012年8月29日水曜日

[万葉集]大伴家持・1

<大伴家持・1・万葉集>


春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ少女

訳・春の園の紅に美しく咲いている桃の花。その色が下に映えている道に出て立つ乙女よ。

2012年8月28日火曜日

[万葉集]市原王

<市原王・万葉集>

一つ松幾代か経ぬる吹く風の声の清きは年深みかも

訳・この一本の松は何代経ているのか。吹く風の音が清らかなのは年を重ねているからか。

2012年8月27日月曜日

[万葉集]遣唐使母

<遣唐使母・万葉集>


旅人の宿りせむ野に霜降らばわが子羽ぐくめ天の鶴群

訳・旅人が宿りをする野に霜が降ったら、わが子を羽で包んでおくれ。空を飛ぶ鶴の群れよ。

2012年8月26日日曜日

[万葉集]中臣宅守

<中臣宅守・万葉集>

畏みと告らずありしをみ越路の手向に立ちて妹が名告りつ

訳・畏れ多いと言わずにいたのに、越前へ行く道の手向に立ってあの人の名を言ってしまったよ。

2012年8月25日土曜日

[万葉集]狭野茅上娘子・2

<狭野茅上娘子・2・万葉集>

わが背子が帰り来まさむ時の為命残さむ忘れたまふな

訳・あなたが帰っていらっしゃる時のために私は生きていましょう。忘れないで下さい。

2012年8月24日金曜日

[万葉集]狭野茅上娘子・1

<狭野茅上娘子・1・万葉集>


君が行く道のながてを繰り畳ね焼きほろぼさむ天の火もがも

訳・あなたが流されて行く長い道を、たぐり寄せてたたんで焼き滅ぼす天の火があってほしい。

2012年8月23日木曜日

[万葉集]高橋虫麻呂

<高橋虫麻呂・万葉集>


勝鹿の真間の井を見れば立ち平し水汲ましけむ手児奈し思ほゆ

訳・勝鹿の真間の井戸を見ると、昔ここを行ったり来たりして水をくんだという手児奈(伝説上の娘)のことがしのばれる。

2012年8月22日水曜日

[万葉集]山上憶良・3

<山上憶良・3・万葉集>


世間を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば

訳・世の中をつらく身も細るようだと思うが、飛び立つこともできない。鳥ではないので。

2012年8月21日火曜日

[万葉集]山上憶良・2

<山上憶良・2・万葉集>

銀も金も玉も何せむに勝れる宝子に及かめやも

訳・銀も金も玉も何にしようか。優れた宝である子供に及ぼうか、いや及びはしない。

2012年8月20日月曜日

[万葉集]山上憶良・1

<山上憶良・1・万葉集>

憶良らは今は罷らむ子泣くらむそを負ふ母も吾を待つらむそ

訳・この憶良はもう退出しましよう。子供が泣いているだろうし、その子を背負っている母親も私を待っているでしょう。

2012年8月19日日曜日

[万葉集]大伴旅人・3

<大伴旅人・3・万葉集>

沫雪のほどろほどろに降り敷けば平城の京し思ほゆるかも

訳・泡のように消えやすい雪がはらはらと降りしくと、奈良の都が懐かしく思われるよ。

2012年8月18日土曜日

[万葉集]大友旅人・2

<大伴旅人・2・万葉集>


験なき物を思はずは一坏の濁れる酒を飲むべくあるらし

訳・何のかいもない物思いはしないで、一杯の濁り酒を飲むのがよいようだ

2012年8月17日金曜日

[万葉集]大伴旅人・1

<大伴旅人・1・万葉集>


昔見し象の小河を今見ればいよよ清けくなりにけるかも

訳・昔見た象の小河を今また見てみると、いよいよ清らかになったことだ。

2012年8月16日木曜日

[万葉集]山部赤人・4

<山部赤人・4・万葉集>

春の野にすみれ採みにと来しわれそ野をなつかしみ一夜寝にける

訳・春の野にすみれを摘みに来た私だが、野に心をひかれて一晩泊まってしまったことだ。

2012年8月15日水曜日

[万葉集]山部赤人・3

<山部赤人・3・万葉集>

ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く

訳・夜が更けていくと、久木の生えている清き川原に千鳥がしきりに鳴いているよ。

2012年8月14日火曜日

[万葉集]山部赤人・2

<山部赤人・2・万葉集>

み吉野の象山の際の木末にはここだもさわく鳥の声かも

訳・吉野の象山の山間の木々のこずえには、たくさんさえずっている鳥の声がするよ。

2012年8月13日月曜日

[万葉集]山部赤人・1

<山部赤人・1・万葉集>


若の浦に潮満ち来れば潟を無み葦辺をさして鶴鳴き渡る

訳・和歌浦に潮が満ちてくると干潟がなくなるので、葦辺を指して鶴が鳴いて渡っていく。

2012年8月12日日曜日

[万葉集]志貴皇子

<志貴皇子・万葉集>

石ばしる垂水の上のさ蕨の萌え出づる春になりにけるかも

訳・水野流れ落ちる滝のほとりのわらびが、芽を出す春になったことだなあ。

2012年8月11日土曜日

[万葉集]長意吉麻呂(ながのおきまろ)

<長意吉麻呂(ながのおきまろ)・万葉集>

苦しくも降り来る雨か神の崎狭野の渡りに家もあらなくに

訳・困ったことに降ってくる雨だなあ。三輪の崎の狭野の渡し場に雨やどりする家もないのに。

2012年8月10日金曜日

[万葉集]高市黒人・2

<高市黒人・2・万葉集>


桜田へ鶴鳴き渡る年魚市潟潮干にけらし鶴鳴き渡る

訳・桜田へ鶴が鳴いて渡っていく。年魚市潟の潮が引いたらしい。鶴が鳴いて渡っていくよ。

2012年8月9日木曜日

[万葉集]高市黒人(たけちのくろひと)・1

<高市黒人・1・万葉集>

何処にか船泊てすらむ安礼の崎漕ぎ廻み行きし棚無し小船

訳・今ごろどこに泊まっているだろう。安礼の崎を漕ぎ回って行ったあの棚無しの小船は。

2012年8月8日水曜日

[万葉集]柿本人麻呂・6

<柿本人麻呂・6・万葉集>

淡海の海夕波千波汝が鳴けば情もしのに古思ほゆ

訳・近江の琵琶湖の夕方の波に鳴く千鳥よ。おまえが鳴くと心もしおれて、昔のことがしのばれるよ。

2012年8月7日火曜日

[万葉集]柿本人麻呂・5

<柿本人麻呂・5・万葉集>

小竹(ささ)の葉はみ山もさやに乱るともわれは妹思ふ別れ来ぬれば

訳・ささの葉は山をざわつかせて風に乱れているが、私は妻を思っている。別れてきてしまったので。

2012年8月6日月曜日

[万葉集]柿本人麻呂4

<柿本人麻呂・4・万葉集>

石見のや高角山の木の際よりわが振る袖を妹見つらむか

訳・石見の高角山の木の間から、私が振る袖を妻は見たであろうか。

2012年8月5日日曜日

[万葉集]柿本人麻呂3

<柿本人麻呂・3・万葉集>

東の野に炎の立つ見えてかへり見すればつき傾きぬ

訳・東の野にあけぼのの光が差すのが見えて、振り返ってみると西の空に月が傾いているよ。

2012年8月4日土曜日

[万葉集]柿本人麻呂2

<柿本人麻呂・2・万葉集>

ささなみの志賀の大わだ淀むとも昔の人にまたも逢はめやも

訳・志賀の大きな湾は淀んでいても、昔の人に再び会うであろうか。いや会えまい。

2012年8月3日金曜日

[万葉集]柿本人麻呂1

<柿本人麻呂1・万葉集>


ささなみの志賀の辛崎幸くあれど大宮人の船待ちかねつ

訳・志賀の辛崎は昔のままだが、昔の大宮人の船は待っても見ることはできない。

2012年8月2日木曜日

[万葉集]大伯皇女(おおくのひめみこ)

<大伯皇女(おおくのひめみこ)・万葉集>

わが背子を大和へ遣るとさ夜深けて暁露にわが立ち濡れし

訳・私の弟を大和へ帰すというので見送っていると、夜も更けて私は朝露に濡れてしまった。

2012年8月1日水曜日

[万葉集]石川郎女(いしかわのいらつめ)

<石川郎女(いしかわのいらつめ)・万葉集>

吾を待つと君が濡れけむあしひきの山のしづくに成らましものを

訳・私を待ってあなたが濡れたという、山のしずくになれればよいのに。

(大津皇子、「あしひきの山・・・」の句の返歌)